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「今日からこの忍術学園で、毒虫の飼育及び毒物管理の仕事をしていただく。新しい職員のくんじゃ。」

まさか。
まさか自分が…こんな大勢の人に、こんなところで、こんな風に紹介されようとは、2ヶ月前の私には想像もつかなかっただろう。

私は。十三歳。
姓は。一度は捨てて名乗らなくなったのだが、ここで働くにあたってもう一度使う事になった。

私はついこの間まで長州の世鬼朽葉忍軍という忍組織に属していた。
訳あって里を去る事となり、抜け忍になった。
そして今日、私は知り合いの伝手でここに就職する事になった。…というのは名目で、趣意は脱退した組織からの保護だ。

先ほどから何度も“ここ”と言っているその場所は、兵庫のド田舎――忍者育成施設『忍術学園』である。

今、そこの敷地内にあるただっ広い校庭に朝礼が開かれ、全生徒職員が集まっている。
私は木製の可動式台の上に立たされ、学園長に紹介されているところだ。

、君からも何か一言。」

隣に立つ学園長が私に話を振った。
私は、整列してこっちを見ている生徒の誰とも目を合わせる事無くこう言った。

「よろしくお願いします。」

朝礼が始まる前「これだけ言えばそれでいい。」と言われていたお決まりの一言。
それだけ。
それ以上に、話したいことなんてなかったから。








「米倉、煙硝蔵、衣料倉庫、書庫、武器庫……食堂、入浴場……もうこれくらいかな。」

前を歩く土井先生が立ち止まり、宙をあれこれ指差しながら言った。

朝礼が終わった後、午前に授業の無い先生が私に学園内を案内してくれた。
外から見てだいぶ広い所だとは思ったが、まさかここまで色々な設備が揃っているとは思わなかった。
場所を覚えるのは職業柄得意ではあるが、さすがに最初のうちは迷うかもしれない。

「いっきに全部覚えるのは無理かもな。まあ、生活していくうちに覚えて行けばいいさ。迷った時は近くの誰かに構わず聞きなさい。」

私は「はい。」と返事した。

土井先生は、里を抜けてから学園に来る今日までの2ヶ月間、一番世話になった人だ。
彼が借りている家にしばらく住まわせてもらっていた。最初の数日間は、仕事を休んで私に付いていてくれたりもした。
知的で面倒見の良い人柄。今までの生活の中で関わった事の無いタイプだった。
あれからそれまで何でも世話してくれて、最初のうちは戸惑った。いや、今でも少し戸惑うくらい。
が、決して不快な気持ちにはさせない不思議な人。

「土井先生。」
「なんだ?」
「私、自分の仕事だけしていればいいんですよね。」

私は確認した。
土井先生は私の言い様に何かひっかかったようだが、「ああ。」と答えた。

「…やっぱり、私にここは合わなそうだから。」

付け足すように言った言葉は本音。
同じ忍の世界でも、ここは私の教養の中にある忍とは違う忍の世界のような雰囲気がしているのだ。

伏せ目で黙っていると、ポンと頭の上に手が乗せられた。

「合う合わないなんて、決めるのはまだ早いぞ。」
「…………。」
「最初のうちはそれでいい。だからとりあえず、ここで生活してみなさい。」

土井先生はわしゃわしゃと髪を撫で回した。
一番下の学年を教えていると言っていたが、日常でもその習慣がでていると一緒に過ごしていて思った。
子ども扱いみたいな、そういうの。…でも、彼がやるとそれすら不快にならないのがまた不思議だ。

私は乱れた髪を手櫛で軽く直してから、支給された黒い頭巾を巻いた。

「説明しておいた通り、勤務は住み込みだ。校庭の向こうにあったくのいちの敷地内に離れがある。そこがお前の部屋になると聞いた。この後くのいち教室の先生が案内してくれるそうだ。…私はそこに行くことはできないから。」
「どうして?」
「くのいち領内は男子禁制なのだ。教職員、来訪者例外なく。」
「なるほど。」
「持ってきた荷物は私の部屋に置いてあるから、部屋の場所が分かったら取りに来なさい。」
「わかりました。」
「――じゃあ、最後にお前の主な仕事場…虫倉、菜園、飼育施設だが…その辺は私より詳しい者がいるから、昼休みに呼んで案内させる。」
「はい。」

土井先生が再び歩き出したので、その後に付いて私も歩き出した。



ここで私に何をしろというのか。
なぜ私をここに迎え入れたのか。
私にはまだ、理解できなかった。